「もう辞めたい。でも今すぐは辞められない」。
お金、家族、キャリア、転職への不安……いろいろな事情を抱えながら、それでも毎朝職場に向かっている人は少なくありません。けれど、その状態が長く続くと、心も体も少しずつ削れていきます。この記事は、「辞める/辞めない」の結論を急ぐためではなく、今の職場にいるあいだに 自分をこれ以上すり減らさないための実用的なマニュアル をまとめたものです。
最初に、今の状態がどれくらい危険なのかを見極める視点を確認し、次に「今日からできる小さな工夫」でダメージを増やさない方法を紹介します。さらに、ムリな要求から身を守る境界線の引き方、職場の外に避難場所をつくる習慣、お金とキャリアの不安を静かに整理するステップ、「いつか辞める」を現実的な計画に変える流れ、そして限界が近いときの緊急避難プランまで。
今すぐ環境を変えられなくても、「自分だけは、自分の味方でいる」ための考え方と行動の選択肢を、少しでも増やすきっかけになればうれしいです。
「辞めたいのに辞められない」状態のしんどさを言葉にする
仕事を辞めたいと感じるとき、多くの人は同時にこんなことも考えています。
- 辞めたら生活が成り立たないかもしれない
- 家族や周りに心配をかけたくない
- 転職しても、もっと悪い環境だったらどうしよう
- 今の職場でダメな自分が、他で通用するのか不安
- 「根性がない」と思われるのが怖い
一見、矛盾する思いが同時に走っています。
前に進みたいのに、足に重い鎖が付いているような感覚。
この二重のプレッシャーの中で働き続けると、心は当然疲れます。
大事なのは、まずこの状態を 「自分が弱いから」ではなく、「条件が厳しいから」 と認識し直すことです。
「辞めたいのに辞められない」という事実そのものが、あなたの真剣さの証拠でもあります。
ここから先は、「その真剣さを、どうやって自分を守る方向に使い直すか」を一緒に考えていきます。
まず確認したい「緊急度」と「安全ライン」
自分を守るためには、今の状況の危険度をざっくり把握しておく必要があります。
ここでは、あくまでも目安として3つのレベルで考えてみます。
レベルA:今すぐ離れることを最優先したい状態
次のような状況があれば、細かい工夫よりも「離れる」方向の検討が優先です。
- 暴力や暴言、人格否定が日常的にある
- セクハラ・パワハラなど明らかなハラスメントが継続している
- 違法な長時間労働が続き、改善の見込みがない
- ミスをきっかけに、執拗な吊し上げや無視が行われている
- 「消えてしまいたい」「自分を傷つけたい」といった気持ちが強くなっている
ここまで来ている場合、
「続けられるかどうか」ではなく
「このまま続けると危険かどうか」 を基準に考えます。
信頼できる人への相談、産業医や外部窓口の利用、医療機関の受診など、
一人で抱えずに外部の力を借りることがとても大切です。
レベルB:かなりきついが、まだ調整や工夫の余地がある状態
- 週末になると何とか回復するが、月曜が憂うつでたまらない
- 頭痛・胃痛・不眠などはあるが、治療や休養で落ち着く範囲
- ハラスメントまではいかないが、雰囲気がピリピリしている
- 業務量は多いが、たまに相談すれば調整してもらえる
このレベルでは、
- 今日これ以上悪化させない工夫
- いざとなれば動けるように準備すること
の二本柱で考えていきます。
レベルC:ストレスは大きいが、まだ踏ん張りがききそうな状態
- 強い不調はないが、将来を考えるとこのまま続けるのは不安
- 「辞めたい」気持ちはあるが、日常生活はなんとか回せている
- 上司や同僚に相談すれば、多少柔軟に対応してもらえる
この場合も、「今は持ちこたえられるから大丈夫」と放置せず、
早めに出口や選択肢を増やす準備をしておくことが、自分を守ることにつながります。
今日からできる「これ以上すり減らさない」小さな工夫
環境を変える前に、まずは 自分の消耗を増やさない ことが大切です。
ここでは、明日からでもできる小さな工夫をいくつか紹介します。
朝イチの「今日だけを考える」メモ
辞めたい気持ちが強いとき、頭の中には「来週」「来月」「来年」の憂うつが一気に押し寄せてきます。そこで、朝イチに次の一文を書いてみます。
「今日は、これだけできればOK」
- 会議で一度だけ発言する
- たまっていたメールを3件だけ返す
- 大きなタスクの「最初の10分」だけ手をつける
内容は小さくてかまいません。
「今日一日を完璧にこなす」ではなく、「今日をどうやって終わらせるか」 に視点を移します。
「がんばらない時間」を先にカレンダーに入れる
一日がぎゅうぎゅう詰めだと、人はずっと息を止めているような状態になります。
まず最初に、休憩時間を予定に入れてしまいましょう。
- 午前中に10分
- 午後に10分
この20分を、スマホではなく「何もしない時間」にしてみます。
窓の外を見る、深呼吸する、ゆっくり飲み物を飲む。
それだけでも、頭の緊張は少しゆるみます。
業務量から自分を守るタスク整理術
「辞めたい」と思うほど追い詰められているとき、机の上やタスク表はたいていカオス状態です。
ここを少し整えるだけでも、体感の重さは変わってきます。
すべてのタスクを一度「見える場所」に出す
まずは、頭の中に散らばっている「やらなきゃ」を全部紙やメモに書き出します。
大きさも期限もバラバラで大丈夫です。
- 見積もり作成
- 会議準備
- メール返信
- 報告書の修正
- 書類提出
- ちょっと気になっている確認事項 …など
書き出し終わったら、それぞれに
- 締切
- かかりそうな時間(感覚でOK)
をざっくりメモします。
「やる/後回し/人を変える」に分ける
そのうえで、次の3つに仕分けします。
- 今日・明日中にやる
- 来週以降に回しても問題ない
- 本来は自分の担当ではない/人を変えられそう
「3」に入ったものは、すぐに手放すのが難しいこともあります。
それでも、「これは本来、自分だけの責任ではない」と認識しておくだけでも、精神的な負担は違ってきます。
人間関係から自分を守るコミュニケーションと距離感
しんどい職場では、仕事そのものより「関わる人」の影響が大きいことが多いです。
関わる人をレベル分けしてみる
紙に円を3つ描いて、こう書き分けてみます。
- 真ん中の小さな円:安心して話せる人
- 真ん中の周り:普通に話せる人
- 一番外側:必要最低限だけ関わりたい人
ここで大事なのは、「外側の人に対して、過剰に頑張らなくていい」と自分に許可を出すことです。
「外側の人」に対しては、
- 返事は短く、事実だけ
- 雑談には無理に付き合わない
- 仕事以外の話題は広げない
と決めてしまって構いません。
自分を守る一言フレーズを決めておく
急に話しかけられたり、きつい言い方をされたりすると、とっさに言葉が出てこないことがあります。あらかじめ「困ったときに使うフレーズ」をいくつか持っておくと、自分を守りやすくなります。
- 「確認して、あとでお返事します」
- 「今は別のタスクに入っているので、◯時以降であれば対応できます」
- 「その点は、一度整理させてもらってもいいですか?」
すぐに完璧な返答をしなくていい。
一度持ち帰って、自分のペースで考える時間を取るためのフレーズだと思ってください。
ムリな要求にNOを伝える境界線の引き方
「辞めたいけど辞められない」人ほど、頼まれごとを断るのが苦手です。
しかし、すべてを引き受けてしまうと、自分が潰れてしまいます。
1ステップ挟んで「相談」に変える
いきなりNOを言うのではなく、まずは 相談の形に変える のがおすすめです。
「今、◯◯と△△も抱えていて、今日中にすべて対応するのは難しそうです。
この新しいタスクを優先するなら、どれを後ろにずらしましょうか?」
「時間的に、今日はここまでであれば対応できます。
それ以上を希望される場合は、◯さんにも分担してもらう形でもよいでしょうか?」
ポイントは、
「できない」と突き返すのではなく、
「条件を変えればできる部分もある」と共有する ことです。
自分の中に「これ以上は無理」というラインを持つ
境界線を引くためには、自分の中に目安を持っておく必要があります。
- 1日に残業できる時間の上限
- 休日出勤は月に何回までなら許容できるか
- 夜何時以降の連絡には原則対応しないのか
このラインを決めておくと、
それを超える依頼が来たときに、「一度持ち帰って考える」ことができます。
感情のガス抜き:一人で抱え込まないための習慣
つらい環境で働いていると、どうしても感情のゴミがたまり続けます。
ガス抜きがない状態で走り続けると、ある日突然、心が動かなくなってしまうこともあります。
愚痴ノートのすすめ
ノートでもスマホのメモでもいいので、「誰にも見せない愚痴専用スペース」を作ります。
- 「今日は◯◯と言われて腹が立った」
- 「また無茶振りされた。正直、信頼が削られている」
- 「辞めたい。けど、怖い。情けない気持ちもある」
どんな内容でも、汚い言葉でも構いません。
書いたら、読み返さなくてもよいです。
頭の中から感情を外に出すための場所だと考えてください。
「よかったこと」を最後に一行だけ足す
愚痴だけを書いていると、自分の世界が「嫌なものだけ」で埋まってしまいます。
可能なら、最後に一行だけ、「今日のよかったこと」も足してみてください。
- コンビニのコーヒーがおいしかった
- 帰り道の空がきれいだった
- 同僚がさりげなくフォローしてくれた
気分を無理にポジティブにするためではなく、
「嫌なことだけが起きているわけではない」というバランス感覚を保つための一行です。
お金の不安を静かに整理する
「辞めたいのに辞められない」状態の大きな原因が、お金の不安です。
ここは、感情ではなく数字で見てみましょう。
最低限必要な生活費を出す
家計簿アプリや通帳を見ながら、次の項目にざっくり金額を書いてみます。
- 家賃・住宅ローン
- 光熱費・通信費
- 食費・日用品
- 交通費
- 保険料・ローン返済
- その他、絶対に払う必要があるもの
合計が「最低限必要な毎月の金額」です。
ここから、サブスクや娯楽費など「調整が効く支出」を分けてみると、「どうしても守りたいライン」が見えてきます。
貯金と「あと何か月」の目安
現在の貯金額を、「最低限の生活費」で割ってみましょう。
- 例:貯金60万円 ÷ 月15万円 = 4か月
この数字は、完璧なシミュレーションではありませんが、
「もし休職・退職したとして、何か月なら持ちこたえられそうか」の目安になります。
「案外、数か月ならなんとかなるかもしれない」
「やっぱり今すぐ辞めるのは難しいから、半年かけて出口を作ろう」
といった現実的な判断につながります。
キャリアの不安を分解し、現実的に眺める
次に、キャリアの不安を整理します。
「何が不安なのか」を分けて書いてみる
- 今の会社にいることの不安
- 辞めたあとの収入や働き方の不安
- 自分のスキルが通用するかどうかの不安
これらをごちゃ混ぜに考えると、「とにかく全部不安」に見えてしまいます。
紙に3つの見出しを書き、思いつくことを下に箇条書きしてみてください。
「証拠がある不安」と「想像だけの不安」を見分ける
書き出した不安の横に、
- 実際に経験したこと・数字に基づいている → ○
- まだ起きていない想像に近い → △
と印をつけてみます。
例:
「他の会社でも通用しないかもしれない」→ △(まだ試していない)
「残業が月80時間続いていて、体がきつい」→ ○(実際の数字がある)
△の不安は、情報を集めたり、少し試してみたりすることで、現実の大きさを測り直せます。
転職サイトを見る、求人票を眺める、スキルアップの勉強を少し始める。
それだけでも、「完全な闇」だった未来が、少し輪郭を持ち始めます。
「いつか辞める」を計画に変える3つのステップ
気持ちの中で「いつか辞めたい」と思い続けるだけでは、現状への無力感が増してしまいます。
ここでは、それを計画に変えるための3ステップを整理します。
ステップ1:仮の期限を置いてみる
- 「最短でも、あと◯か月は今の職場にいる」
- 「長くても、◯年以内には次の選択をする」
と、仮の期限を置いてみます。
これは絶対ではなく、あくまで「目安の旗」です。
旗があると、
- その間は「なんとかしのぐ」
- それ以降は「別の道もあり」と考えられる
というふうに、時間に区切りが生まれます。
ステップ2:その期間にやる「準備タスク」を決める
仮の期限までにやっておきたいことを、3〜5個ほど決めます。
- 職務経歴書のたたき台を作る
- 転職サイトに登録して、求人メールだけ見てみる
- 関心のある職種の勉強を始める
- 毎月1万円だけでも貯金に回す
- 社外の人とのつながりをひとつ作る
すべて完璧にこなす必要はありません。
「0か100か」ではなく、「少しでも前に進む」を大切にします。
ステップ3:3か月ごとに見直す
3か月に一度、「今どう感じているか」を振り返る時間を取ります。
- 気持ちのしんどさは変わったか
- 仕事の量や人間関係はどうか
- 準備タスクはどこまで進んだか
ここで、「やっぱりこのまま続けるのは難しい」と感じたら、
仮の期限を前倒しするのもひとつの選択です。
体を守ることは、キャリアを守ること
心がしんどいときほど、睡眠・食事・運動は後回しになりがちです。
しかし、長い目で見れば、体を守ることはそのままキャリアを守ることでもあります。
- 睡眠時間を削って残業しても、ミスが増えて評価が下がることがある
- 不調を抱えたまま働き続けると、将来働ける年数そのものが減る可能性もある
だからこそ、
- 平日は最低◯時間は寝る
- 食事を抜いてまで残業しない
- 休日は「何もしない日」を意識的につくる
といった、体を守るルールを自分で決めておくことが大切です。
自分を責めない言葉を増やす
真面目な人ほど、心の中で自分を責める言葉が多くなりがちです。
- もっと頑張れたはずなのに
- みんなやっているのに、自分だけ弱音を吐いている
- 辞めたいなんて思う自分は甘い
こうした言葉は、一見「向上心」のようにも見えますが、
限界に近いときには自分を追い詰める刃になります。
代わりに、こんな言葉を増やしてみてください。
- 「この状況でここまで続けているだけでも、かなり頑張っている」
- 「だからこそ、少し自分を守る工夫をしていい」
- 「辞めたいと思うほどしんどいのは、それだけ真剣に向き合ってきた証拠」
言葉を変えるだけで、疲れ切った心に少しだけスペースが生まれます。
それでも限界が近いときの「緊急避難プラン」
工夫を重ねても、「今日は本当に無理だ」と感じる日もあります。
そういうときのために、あらかじめ「緊急避難プラン」を決めておきましょう。
- 体調不良として休む・早退することを、自分に許可しておく
- 心身の危険を感じたら、医療機関や相談窓口に連絡する
- 信頼できる人に「限界が近いときは連絡するね」と事前に伝えておく
そして何より、
「限界が来る前に逃げることは、弱さではなく、人生を守る選択」だと自分に繰り返し伝えてください。
おわりに:自分だけは、自分の味方でいてほしい
「辞めたいけどすぐには辞められない」状況で働き続けるのは、それだけで大変なことです。
それでも毎日会社に向かっているあなたは、もう十分すぎるほど頑張っています。
- 完璧な働き方を目指すのではなく、「沈まない働き方」を選んでいい
- すぐに環境を変えられなくても、今日からできる小さな工夫はたくさんある
- 将来の選択肢を増やす準備は、気力がすべて戻ってからではなく、しんどい今こそ少しずつ進めていい
この記事の中のどれか一つでも、「やってみようかな」と思えるものがあれば、
それだけで、明日以降のあなたの一日は少し違ったものになるはずです。
どうか、どんなに疲れている日でも、
自分だけは、自分の味方でいてください。
「もう無理だ」と感じるほどの毎日の中で、
それでも自分を守るための小さな選択を重ねていくことが、
これからの働き方と人生を、静かに、しかし確実に変えていく力になります。

