不安が強い人ほど「完璧に準備できてから動く」ことで安心を得ようとします。でも現実は、準備を積み上げるほど“抜け”が気になり、確認が増え、着手が遅れ、締切が近づいて不安が強くなる…という循環に入りやすいです。この記事では、完璧準備が生まれる仕組みをほどきながら、「7割で進める」ための具体的な技術を、仕事の場面に落として紹介します。ポイントは、①不安を消すのではなく“扱う”前提に変える、②準備を“成果に直結するもの”だけに絞る、③最初の一歩を小さくし、途中で修正できる設計にすること。最後に、明日から使えるチェックリストとテンプレも置きます。
完璧な準備にハマるのは、あなたが弱いからではない
「準備に時間がかかる」「確認ばかりしてしまう」「もっと調べてから…と思って進まない」。こういう悩みは、意志が弱いからでも、怠けているからでもありません。むしろ逆で、責任感が強く、失敗を避けたい気持ちが強い人ほど起こりやすい現象です。
不安が強い人の頭の中では、だいたい次のような“見え方”が起きています。
- 失敗したときの損失が大きく見える(評価が下がる、信頼を失う、迷惑をかける)
- 失敗の確率が高く見える(ちょっとした抜けが致命傷になりそう)
- 他人の目が厳しく見える(「ちゃんとしてない」と思われそう)
- 自分の回復力が低く見える(失敗したら立て直せない気がする)
つまり、行動の前に「リスクが巨大」に見えてしまう。だから人は自然に、その巨大なリスクを小さく見せる方法を探します。そこで最も手に取りやすいのが「準備を増やす」ことです。調べる、確認する、想定する、資料を整える。これらは“今すぐできる”し、“やっている感”もある。そして一時的に安心が手に入ります。
ただ、この安心は長持ちしません。準備が増えるほど、次の不安が生まれてくるからです。「ここまでやったなら、もっと完璧にしないと」「これだけ見たなら、まだ見落としがあるかも」。準備が増えるほど、準備の“抜け”が怖くなる。これが罠の入り口です。
「完璧な準備」が不安を増やす仕組み
完璧準備の罠は、だいたい同じ構造をしています。心の中では、次のループが起きます。
- 不安が出る(失敗が怖い)
- 準備を増やす(調べる・整える・確認する)
- 一瞬安心する(よし、これで大丈夫…)
- すぐ新しい不安が出る(でも、まだ抜けがあるかも)
- さらに準備を増やす
- 着手が遅れる/締切が近づく
- 時間圧で不安が増える(やばい)
- さらに準備で逃げたくなる(でも動けない)
ポイントは、「準備」が“安心”に効くのは短期で、長期的には“見落としへの恐怖”を育ててしまうことです。
そしてもう一つ、重要な要素があります。完璧準備は、実は“行動しない理由”としても機能してしまうこと。
- 「まだ情報が足りないから、着手できない」
- 「全体像が見えてからじゃないと危ない」
- 「準備が整っていない状態で出すのは失礼」
これらは、全部もっともらしい。だから自分でも止めづらい。でも、準備が整う日は基本的に来ません。仕事は変化するし、相手の反応もあるし、途中で前提が変わるからです。
完璧準備が目指しているのは「確実性」ですが、現実の仕事は「不確実性」の上に立っています。だから、準備で不確実性をゼロにしようとすると、終わらないのです。
7割で進める=雑にやる、ではない
ここで誤解されやすいのが、「7割で進めるって、適当にやること?」という点です。
違います。7割とは、次の状態を作ることです。
- 目的に対して“必要十分”な品質
- 早めに相手の反応をもらえる形
- 後から修正できる余白が残っている
- 重要なリスクだけは先に潰してある
雑にやるのではなく、「完成の仕方を変える」。最初から100点を狙うのではなく、70点を早く出して、残り30点を“現実に合わせて足す”という作り方です。
この考え方の強みは、途中で前提が変わっても軌道修正できること。完璧準備は「最初に全部決めてから動く」型ですが、7割進行は「動きながら決める」型です。不確実な環境では、この方が強い。
まずやるべきは「不安をゼロにする」発想をやめること
不安が強い人ほど、「不安がなくなったら動ける」と感じます。でも実際は逆で、「動くから不安が薄れる」側面もあります。
不安は、未来のリスクを知らせるアラームです。アラームはゼロにならなくていい。必要なのは、アラームの音量を調整して、行動できる状態にすることです。
ここでおすすめの言い換えがあります。
- × 不安がなくなったら始める
- ○ 不安がある状態でも“前に進める設計”を作る
不安があっても進める設計とは、次のようなものです。
- 小さく始める(最初の一歩を軽くする)
- 早めに見せる(途中で修正できるようにする)
- 判断基準を決める(迷いを減らす)
- リスクの優先順位をつける(全部を潰さない)
これが7割技術の土台になります。
「完璧準備」を手放すための3つの視点
ここからは、具体的にどうやって7割で進めるか。まず、考え方の骨格を3つに分けます。
準備は「安心のため」ではなく「成果のため」にする
完璧準備の多くは、成果に直結しない“安心作業”になっています。たとえば、
- 似た資料を何本も読み比べる
- 文章を何度も整形し直す
- 想定問答を過剰に作る
- まだ聞かれてない懸念に答え続ける
これらは悪ではないのですが、「成果に直結する準備」だけ残す必要があります。
判断の質問はこれです。
この準備は、相手がYESと言う確率を上げるか?
それとも、自分が安心したいだけか?
安心だけの準備は、時間を吸います。成果に直結する準備は、時間を返します。
失敗をゼロにするより「修正できるようにする」
完璧準備は、失敗をゼロにする方向に働きます。でも、現実の強さは「失敗しないこと」より「修正できること」にあります。
修正できる設計とは、
- 途中で相談できる
- 早めに叩き台を出す
- 論点を分けて確認する
- 関係者の“期待”を先に把握する
つまり、失敗したときのダメージを小さくする。これが不安の根を弱めます。
「自分の頭の中の100点」を捨てる
完璧主義がつらいのは、自分の中に“理想の完成形”があり、それに届かないと出せないからです。でも仕事の評価は、相手の価値基準で決まります。あなたの頭の中の100点と、相手の100点は一致しないことが多い。
だからこそ、早めに相手の評価基準に触れる必要があります。叩き台を出す、途中で聞く、方向性だけ確認する。これが7割進行の核心です。
7割で進める具体技術:仕事で使える5つの型
ここからは、すぐ使える“型”を紹介します。状況に合わせて選べるようにしています。
型1:5分で出す「仮の結論」から始める
不安が強い人は、全体を理解してから結論を出したくなります。でも現実は、結論を仮置きした方が調査も進みます。
やり方は簡単です。
- 目的を書く(何を決めたい?何を作りたい?)
- 5分だけ考えて「仮の結論」を一行で書く
- その結論を支える理由を3つだけ書く
- 不明点を3つだけ書く
この「仮の結論」は、外に出さなくてもいい。まず自分の中で“向かう方向”を仮決めする。すると、調べるべきことが明確になり、準備が収束します。
完璧準備は“方向が決まらないまま情報を集める”ので終わりません。仮の方向を決めると、準備が目的化しにくくなります。
型2:準備の上限を先に決める(タイムボックス)
不安の準備は、時間があるだけ膨らみます。だから先に上限を決めます。
- 調査:30分
- 資料作り:60分
- 見直し:15分
この上限は、最初から完璧に設定しなくていいです。「とりあえず」で決める。重要なのは、“無限にやらない”という枠を先に作ること。
さらに効く工夫があります。
タイムボックスの最後に「提出する形」を作る
たとえば、30分調査したら「要点3行+リンク3つ」をSlackに貼る。60分資料作りなら「1枚だけ」作って共有する。形にすると、準備が成果に変わります。
型3:叩き台を“早く・小さく”見せる(70点提出)
完璧準備の反対は、叩き台です。叩き台のコツは、“完成品の縮小版”にしないこと。縮小版は結局、完成度を上げたくなります。
叩き台は、確認したいことだけを含めます。
- 方向性を確認したい → 見出しだけ
- 構成を確認したい → 章立てだけ
- 仕様を確認したい → 画面遷移だけ
- 合意を取りたい → 選択肢と判断材料だけ
「今どこを合意したいのか」を一つに絞ると、叩き台が軽くなります。軽いから出せる。出せるから修正が早い。これが7割の推進力です。
型4:「重要な不安」だけ先に潰す(リスク仕分け)
不安が強い人は、全部の不安を同じ重さで感じてしまいがちです。そこで仕分けをします。
紙にこう書きます。
- A:今潰さないと詰む不安(致命的)
- B:あとで修正できる不安(可逆)
- C:たぶん起きない不安(想像)
Aだけ先に手を打ちます。BとCは、メモに置いて進みます。
完璧準備はBとCにも全力で対応してしまうので時間が溶けます。
Aの例:
- 提案の前提が違っていたら全部やり直し
- 期限に間に合わない
- 法務・セキュリティ・契約などの地雷
Bの例:
- 表現の言い回し
- 資料のデザイン
- 数字の微調整(後で差し替え可能)
Cの例:
- 「こう突っ込まれたらどうしよう」系の空想問答
この仕分けだけで、準備の量が一気に減ります。
型5:最後の30点は「反応を見て足す」と決める
7割で進めるためには、「残りは後で足す」と決める勇気が必要です。でも勇気は出しづらい。だから“決め方”を用意します。
おすすめはこれです。
- 70点:方向性と骨子が合っている状態
- 残り30点:相手の反応・質問に合わせて足す状態
つまり、最初から100点を作るのではなく、「相手の質問が出たら、その質問の分だけ作る」。これなら、努力が無駄になりにくい。不安が強い人ほど、“無駄な努力”に敏感なので、この設計は相性がいいです。
「7割で進める」が難しい人がつまずくポイントと対処
ここは大事なので、よくある“つまずき”を先に潰します。
つまずき1:7割の基準がわからない
7割の基準は「相手が次の判断をできるか」です。
- 上司がGO/NO-GOを言えるか
- 依頼者が方向性にOKを出せるか
- チームが着手できるか
判断ができる情報が揃っていれば7割です。逆に、見た目が整っていても判断できなければ7割ではありません。
つまずき2:叩き台を出すのが怖い
叩き台が怖い人は、叩き台に「完成品の期待」を乗せてしまっています。だから怖い。そこで、先に枕詞を入れます。これは逃げではなく、期待値調整です。
- 「方向性だけ見てほしい叩き台です」
- 「骨子だけなので、穴がある前提で見てください」
- 「ここだけ確認できれば次に進めます」
こう言うだけで、叩き台が“未完成であること”が合意されます。すると、あなたの心も少し軽くなります。
つまずき3:結局、準備で逃げてしまう
準備に逃げるときは、「動くのが怖い」より「決めるのが怖い」ことが多いです。決める=責任が発生するから。
この場合は、決める範囲を小さくします。
- 全部決める → 今日は“方針だけ”決める
- 正解を決める → まず“仮”を決める
- 一発で決める → 2案出して選ぶ
決断のサイズを小さくするだけで進みます。
7割で進めるための「準備の取捨選択」チェックリスト
準備を削るのが苦手な人は、削る基準が曖昧です。ここで基準を明文化します。準備をする前に、次の質問に答えてください。
- これは“相手の判断”に必要?
- これは“成果物の品質”に直結する?
- これは後から差し替えできる?
- これは今日やらないと詰む?
- これは「不安を下げるため」だけになってない?
そして、次のどれかに分類します。
- 必須:判断に必要/致命リスク回避
- あれば良い:見栄え/理解促進/付加価値
- 今はいらない:安心作業/想像問答/過剰比較
「今はいらない」に入れたものは、メモに置いて“進む”。メモがあるだけで、人は不安を少し手放せます。「忘れてない」と脳が理解するからです。
具体例:よくある仕事シーンでの7割運用
実際の場面に落とすと、7割の使い方がイメージしやすくなります。
例1:上司に提案するとき
完璧準備:資料を完璧にしてから1回で通そうとする
7割運用:最初に“方向性確認”を取りにいく
やり方:
- 1枚だけ作る(目的、提案、期待効果、懸念、次アクション)
- 「方向性だけ確認ください」で5分もらう
- OKなら詳細を詰める
この方が、資料が無駄になりにくいし、ズレた努力をしなくて済みます。
例2:資料作成が終わらないとき
完璧準備:読みやすさ・デザイン・網羅性を全部盛り
7割運用:資料の役割を一つに絞る
- 説明する資料 → ストーリー重視
- 合意を取る資料 → 選択肢と判断材料重視
- 記録用資料 → 事実と結論重視
役割が混ざると、全部盛りになって終わりません。役割を決めるだけで、7割が作れます。
例3:メール・チャットが怖いとき
完璧準備:言い回しを延々と直す
7割運用:構造だけ先に決める
- 結論(何をしてほしい)
- 背景(なぜそれが必要)
- 選択肢(A/Bなど)
- 期限(いつまで)
- 確認点(不明ならここだけ教えて)
文章が怖いのは、“構造”が決まってないときです。構造だけ決めると、細部は後から整えられます。
7割で進める「テンプレ」3つ
最後に、明日から使えるテンプレを置きます。コピーして使ってください。
テンプレ1:方向性確認用(Slack/口頭)
- 目的:◯◯を決めたい/進めたい
- 仮案:まずは△△で進めたい
- 理由:①… ②… ③…
- 懸念:A(致命)だけ先に確認したい
- 相談:この方向でOKなら詳細を詰めます(5分ください)
テンプレ2:叩き台提出用(資料・文章)
- これは「方向性の確認」だけを目的にした叩き台です
- 今日確認したいのは「◯◯の方針」と「△△の優先度」です
- 表現や細部は、合意後に整えます
テンプレ3:不安が強い日の自分用メモ
- いま怖いこと:
- A(今潰す):
- B(後で直せる):
- C(想像):
- 今日の最小の一歩(5分でできる形):
今日からの小さな実験:7割で進める練習法
最後に、負荷が少ない練習を提案します。いきなり全部変えなくて大丈夫です。
- まず1件だけ、叩き台を早めに出す
- “見直し時間”を15分に固定する
- 「仮の結論」を5分で書いてから調べる
- 不安の仕分け(A/B/C)だけは毎回やる
この4つのうち、どれか1つだけでも、完璧準備のループは少し弱まります。7割で進める技術は、根性ではなく設計です。あなたの不安は悪者ではなく、丁寧に生きてきた証拠でもあります。だからこそ、その不安に引っ張られずに前へ進める“仕組み”を、少しずつ増やしていけば大丈夫です。

