会議が終わって席に戻るとき、「あのとき一言だけでも言えたらよかったのに」と、心の中で何度も同じ場面を再生してしまうことがあります。自分の頭の中にはちゃんと考えがあったのに、いざその場になると言葉が出てこない。発言しようと口を開きかけた瞬間に、別の誰かが話し始めてしまう。ようやく自分の番が回ってきたと思ったら、もう議題が変わっている。
会議のあとに配られる議事録を読んで、「あ、これは自分も同じことを思っていた」と感じるのに、自分の名前はどこにも出てこない。「何も言わなかった人」として、その場に座っていた自分だけが置き去りになっているような、さみしいような、悔しいような気持ちになる。
この記事では、「自分の意見が言えないまま会議が終わる」日が続いている人が、いきなり“よくしゃべる人”になるのではなく、少しずつ声を出せるようになっていくための練習をまとめていきます。
・性格を変える
・別人のように積極的になる
といった大きな目標ではなく、
「会議が終わったあとに、『今日も何も言えなかった』と自分を責める時間を、少しずつ減らしていくこと」
をゴールに置いています。
今の自分でもできそうなところから、静かに拾ってもらえたらうれしいです。
なぜ「何も言えないまま」になってしまうのか
まず、自分を責める前に、どうしてそうなってしまうのかを整理してみます。
「意見がないから」ではないことは、きっと、あなた自身が一番よく分かっているはずです。
① 頭では考えているのに、言葉にする前に場が進んでしまう
会議の場では、こんなことが起きがちです。
- 説明を聞きながら、「こうしたらいいのに」「ここが不安だな」と頭では思っている
- でも、その考えを言葉にしようと整理する前に、他の人が話し始める
- 「さっきの話に戻っていいのかな」「今このタイミングで言うのは違うかも」と躊躇する
- そうこうしているうちに、議題自体が次に移ってしまう
「ちゃんとしたことを言わなきゃ」と思う人ほど、頭の中で準備に時間をかけてしまいます。
一方で、場の流れはどんどん進んでいく。
そのスピードの差が、「考えているのに言えない」という状態を生みます。
② 「間違っていたら恥ずかしい」が強すぎる
自分の意見を口にしようとした瞬間に、こんな声が頭の中で響いていないでしょうか。
- 「的外れだったらどうしよう」
- 「当たり前のことを言ってると思われるかもしれない」
- 「上司と違うことを言って、空気が悪くなったら嫌だ」
- 「反対意見を言ったら、面倒な人だと思われるかも」
会議という場は、どうしても「評価される」「見られている」感覚が強くなります。
その中で、“間違わないこと”を最優先にしようとすると、口を開くハードルは一気に上がるのです。
③ 「いつ話せばいいのか」が分からない
特に、声の大きい人・発言の多い人が何人かいる会議では、
- 会話に割り込むタイミングがつかめない
- かぶったときに「どうぞどうぞ」と引いてしまう
- 「じゃあ他に意見ある人?」と言われても、急に当てられる感じがして固まる
ということが起こります。
「話す内容」以前に、「話すタイミング」という技術が求められているのですが、それは学校で教わることも、マニュアルがあるわけでもありません。
④ 過去の「うまく話せなかった記憶」がブレーキになる
以前、思い切って発言してみたときに、
- あまり反応がなかった
- 上手く言葉がまとまらず、途中でわけが分からなくなってしまった
- 軽く否定されて、それ以来怖くなってしまった
といった経験があると、「もう失敗したくない」という思いから、さらに口が重くなります。
これらが重なった結果、
「今日こそは何か言おう」と思って会議室に向かったのに、
終わってみれば、また「何も言えなかった自分」だけが残っている。
そんな日が続くのは、あなたの努力不足ではなく、
心と場の条件が、「しゃべりにくい方向」に揃ってしまっているから、とも言えます。
「何も言えない自分」を一気に変えようとしない
ここで大事にしたいのは、
「今日からガンガン発言する人になる」
を目標にしない、ということです。
そのハードルを自分に課してしまうと、
- 1回でも言えなかった日があると「やっぱりダメだ」と自己否定に戻る
- 発言量の多い人と自分を比べて、ますます自信を失う
- 「完璧にできないなら、最初から何もしないほうがまし」と感じてしまう
というループにはまりやすくなります。
この文章で目指したいのは、もっとささやかな変化です。
- 何も言えない日が10回連続だったのが、8回・7回に減っていく
- 会議の中で、一言だけでも自分の声が出せる場面が増えていく
- 会議中の自分の様子を、「責める目」ではなく「観察する目」で見られるようになる
その積み重ねの中で、
いつのまにか、自分の意見を少しずつ出せるようになっていく。
そんな**「練習」**として、これからの話を読んでもらえたらと思います。
会議の前にできる「下準備」で、ハードルを下げる
発言のしやすさは、会議が始まってからだけでなく、始まる前にどれだけ準備できているかで大きく変わります。
1. 「今日の会議で、これだけ言えたらOK」を1つ決める
会議の前に、メモ帳やノートにこう書いてみます。
「今日の会議で、これだけは一言言えたらOK」
ここに書く内容は、立派な意見である必要はありません。
- 「この案について、不安に思っている点が一つあるので確認する」
- 「スケジュール的に厳しい部分があれば、早めに共有する」
- 「分からないところを『分からない』と聞いてみる」
- 「誰かの案に『いいと思います』と一言添える」
「大きな提案」ではなく、「小さな一言」で構いません。
ゴールが「何でもいいから一回発言する」だと漠然としすぎていて、逆にハードルが上がります。
「これを一つ言えたら、今日の自分はよくやった」と決めておくことで、心の負担が少し軽くなります。
2. 「その一言」を、先に文章にしておく
決めた一言は、頭の中で何となく覚えておくのではなく、ちゃんと文字にしておきます。
たとえば、
- 「新しいシステムを導入する場合、入力作業が増えそうですが、その点はどう考えていますか?」
- 「スケジュールについて、一点だけ確認させてください。この日程だと、現場側の準備が間に合わないかもしれません。」
- 「今の案、とても良いと思いました。特に○○の部分が現場にとって助かりそうだと感じています。」
書き慣れていないと、「そんなの書くほどのこと?」と思うかもしれません。
でも、会議中にゼロから日本語を組み立てるのは、それだけでかなりの負荷です。
先に文章にしておくことで、会議中にやるのは「それを読み上げる・少しアレンジする」だけになります。
これは、実は大きな違いです。
3. 「質問」として準備しておくと、さらに言いやすくなる
特に言いづらいのが、「自分の意見」として提案や反対を言うときです。
そこで、最初のうちは、「質問」という形で口を開く練習から始めてみるのもおすすめです。
例:
- 「○○の案について、現場側の工数はどのくらい増えるイメージでしょうか?」
- 「今おっしゃっていた××の部分を、もう少し具体的に教えていただいてもいいですか?」
- 「この方針にした場合、現場で想定されているリスクはありますか?」
質問は、
- 「正解を出さなきゃいけない」プレッシャーが少ない
- 相手の話を理解しようとしている姿勢として受け取られやすい
- 会議の流れを止めるのではなく、「深める」方向に働く
という特長があります。
「自分の意見を主張する」のがまだ怖いうちは、
まず「質問で場に参加する」ことから練習を始めてもよいのです。
会議の最中にできる「小さな声出し」練習
下準備をしていたとしても、いざ会議が始まると、状況は想像以上に慌ただしいものです。
そこで、会議の最中にできる「小さな声出し」の練習をいくつか用意しておきます。
1. 相づちや短い一言から始める
意見を述べる以前に、「声を出す」ことそのものに慣れるのも大切です。
たとえば、
- 誰かの説明のあとに、「はい」「そうですね」と一言だけ添える
- 「ありがとうございます」と受け取る
- 「今のところは大丈夫です」と返事する
こうした短い一言でも、「会議で声を出した」という経験になります。
最初のうちは、これだけでも十分な練習です。
「何も話さなかった自分」から、「少なくとも一度は声を出した自分」に、少しだけシフトさせていきます。
2. 「繰り返し+一言だけ自分の言葉を足す」
もう少し余裕が出てきたら、他の人の発言に乗っかる形での発言を練習していきます。
たとえば、同僚がこんなことを言ったとします。
「このスケジュールだと、現場がかなりバタバタすると思います。」
そのあとに、あなたがこう続けます。
「私も、○○さんと同じで、現場の負担は大きくなると思いました。」
余裕があれば、そのあとに一言だけ自分の視点を足します。
「特に、××のタイミングで集中してしまうと、残業が増える可能性があると感じています。」
ここでのポイントは、
- 「自分オリジナルの意見」を最初から出そうとしない
- 誰かの意見をいったん「繰り返す」ことで、話す入り口を作る
ことです。
繰り返しは、単なるオウム返しではありません。
- 「その意見に自分も賛成している」
- 「その観点を大事だと思っている」
というメッセージになります。
「繰り返し+一言だけ自分の視点」が言えるようになってくると、
会議の中で「自分のポジション」が少しずつ感じられるようになります。
3. 「確認」という形で発言する
もう一つ、比較的ハードルが低いのが、「確認」です。
たとえば、話が込み入ってきたときに、こんなふうに口を開きます。
「すみません、念のため確認させてください。
先ほどお話にあったA案で進める場合、〇月中に△△まで終わらせるイメージで合っていますか?」
「今の話を整理すると、
・方針としてはBで
・細かい運用は、実際にやりながら決めていく
という理解で大丈夫でしょうか?」
確認は、
- 自分の理解を整理する
- 会議全体の共通認識を揃える
という意味で、むしろ歓迎されることが多い発言です。
**「理解しようとしている人」「場の整理を助けている人」**として見られやすいため、「出過ぎた発言」という印象にもなりにくいのが利点です。
「タイミングが分からない」を少しずつ超えるコツ
会議で話すときに多くの人がつまずくのが、「いつ話せばいいのか分からない」というところです。
これはある程度、「技術」として練習することができます。
1. 「息を吸う瞬間」を見つける
誰かが話している途中で割って入るのは勇気が要りますが、
実は人は、文と文の間で軽く息を吸っています。
- 説明の区切り
- 質問が一通り終わったタイミング
- スライドを切り替える瞬間
そうした「微妙な間」で、
「あ、少しだけ空気が止まった」
と感じる瞬間があります。
そこに合わせて、こう切り出します。
「すみません、一点だけいいですか?」
この一言を先に言ってから、本題に入ります。
「すみません、一点だけいいですか?
先ほどのスケジュールのところで、現場のリソースについて確認させてください。」
**「一点だけ」**という言葉は、「長く話しません」というメッセージにもなるので、場も受け入れやすくなります。
2. 「名前を呼ばれる場面」を味方にする
ファシリテーターや上司が、
- 「〇〇さん、どう思いますか?」
- 「現場の立場から見るとどうですか?」
と振ってくれる場面もあります。
こうしたときに沈黙が続くと、「何かすごいことを言わなきゃ」と焦ってしまいがちですが、ここを“練習のチャンス”として使うイメージを持ってみます。
どうしても言葉が出てこないときのつなぎ方としては、
「そうですね…。まだはっきりとは言えないんですが、現時点で感じていることをお話しすると…」
「完全に整理はできていないのですが、現場で見ていて気になっている点が二つあります。」
といった前置きをつける方法があります。
これは、
- 「完璧な意見ではない」
- 「今の時点での仮の考え」
であることを前もって伝える言葉です。
そう名乗りながら話すことで、「完璧じゃなきゃいけない」というプレッシャーを少し下げることができます。
会議後の「反省会」を、“次の練習の準備”に変える
会議が終わったあと、
「また何も言えなかった」
「今の場面でこう言えたはずなのに」
という反省会が、頭の中で始まることがあります。
この反省会を、「自分を責める時間」から、「次への準備の時間」に変えていくことも大切です。
1. 「できなかったこと」ではなく、「できたこと」も書く
ノートやメモに、こういう欄を作っておきます。
- 今日の会議で「できなかった」と感じたこと
- 今日の会議で「できた」こと
たとえば、
できなかったこと
- 準備していた質問を言うタイミングを逃した
- 一度、話そうとしてやめてしまった
できたこと
- 資料を事前に読み、質問を一つ用意しておけた
- 相づちや「はい」「大丈夫です」は何度か言えた
- 上司に振られたとき、短いコメントを返せた
「できたこと」の欄が空欄でも、「無理やり一つは書く」と決めてしまいます。
どんなに小さなことでもかまいません。
- 遅刻せずに参加できた
- メモを取れた
- 途中で席を立たずに最後までいられた
など、「会議に参加した自分」の行動を、少しだけ肯定する言葉を探してあげます。
2. 「次の会議で試したいこと」を一つだけ決める
反省会の最後に、こう書きます。
「次の会議で、試してみたいこと」
ここにも、一つだけでいいので書いておきます。
- 前日に「今日だけ言う一言」を書いておく
- 一度だけ「一点だけいいですか?」を使ってみる
- 誰かの意見に「私も同じです」と一言添えてみる
どれも、小さな実験です。
「次こそ完璧に話す」ではなく、「次はこの実験をしてみよう」という感覚で書いてみます。
このループを何度か続けていくと、
会議
→ 自己否定だけで終わる
ではなく、
会議
→ 振り返り
→ 小さな実験のアイデアが一つ生まれる
という流れに、少しずつ変わっていきます。
それでも「どうしても怖い」ときに考えたいこと
ここまでいろいろな練習を書いてきましたが、
それでも「どうしても怖い」「口を開こうとすると体が固まってしまう」ということもあります。
そのときに一度考えてみたいのは、
「自分がこんなに怖がっているのは、どんな経験があったからだろう?」
という問いです。
もしかしたら過去に、
- 学校で発表をしたときに笑われた
- 家族や先生に、意見を最後まで聞いてもらえず、途中で否定された
- 以前の職場で、会議で発言したときにきつく責められた
といった経験があるかもしれません。
そうした記憶が、「人前で話すこと」「目立つこと」「間違えること」を、危険な行為として脳に刻み込んでいることがあります。
その場合、会議で話すことは、あなたの心にとっては、
「ほんの少し前に、崖のふちに立つようなこと」
に近い感覚かもしれません。
そんな状況で、「もっと頑張れ」「怖がらずに話せ」と自分に命じるのは、実はかなり酷なことです。
もし思い当たることがあるなら、
- 信頼できる人に、会議で話すのが怖い理由を少しだけ打ち明けてみる
- 必要であれば、カウンセリングなど専門家に相談してみる
といった「心の側」のケアも、選択肢に入れていいと思います。
「怖がりな自分が悪い」のではなく、
「怖くなってしまうだけの理由が、自分の過去にちゃんとある」
と認めてあげること。
そこから、少しずつ「今」の会議での練習に取り組んでいくほうが、遠回りなようでいて、実は自然な流れなのだと思います。
「自分の意見が言えない」の裏側にある、やさしさと感性
最後に、もう一つだけ触れておきたいことがあります。
会議でなかなか口を開けない人は、たいていの場合、
- 場の空気をよく読んでいる
- 他の人の発言や気持ちをよく覚えている
- 誰かを傷つける言い方をしたくないと思っている
という、やさしさや感性の細やかさを持っています。
だからこそ、
- 自分の発言が誰かを不快にしないか
- 反論することで、場の空気が悪くならないか
- 自分の意見が、本当にこの場のためになるのか
を、人一倍考えてしまうのです。
それは、「意見がない人」「何も考えていない人」とは、まったく逆の性質です。
あなたがもし、会議のあとにいつも自分を責めてしまうなら、
その裏側で、こんな言葉も付け足してみてほしいのです。
「自分は、場や人のことを、それだけ丁寧に考えようとしている。」
その上で、
「その感性を持ったまま、少しずつ、自分の声も混ぜていけたらいいな。」
と、今の自分に対して静かに願ってみる。
それだけでも、会議に向かうときの心の姿勢が、ほんの少し変わっていきます。
おわりに──「何も言えないまま終わる日」を、少しずつ減らしていく
「自分の意見が言えないまま会議が終わる」日が続くと、
自分の存在自体が透明になっていくような、さびしさを感じることがあります。
でも、あなたがその会議に参加しているということは、
本来そこに「いてほしい」と誰かが思っているからでもあります。
あなたにしか見えない現場、あなたなりの視点が、きっとあるからです。
この記事で書いてきたのは、
- 会議の前に、「今日これだけ言えたらOK」を一つ決めて、文章にしておくこと
- 質問・確認・繰り返し+一言、といった「小さな発言」から練習を始めること
- 「一点だけいいですか?」など、タイミングをつかむためのフレーズを使ってみること
- 会議後の反省会を、「自分責め」ではなく「次の実験の準備」に変えていくこと
- どうしても怖いときは、その怖さの理由に目を向けてみること
- 「話せない自分」の裏にあるやさしさや感性も、ちゃんと認めてあげること
といった、小さなステップです。
どれか一つでも、「これならやってみようかな」と思えるものがあったら、
次の会議で、そっと試してみてください。
今日もまた何も言えなかったとしても、
そのあとにノートを開いて、「次はこれをやってみよう」と一行書けたなら、
それはもう、前に進むための静かな一歩になっています。
「自分の意見が言えないまま終わる日」がゼロになるまでを、目標にしなくて大丈夫です。
まずは、その回数を少しずつ減らしていくこと。
そして、「何も言えなかった自分」を責める時間を、ほんの少しずつ短くしていくこと。
その積み重ねの先で、気づいたら、
会議の中でふっと当たり前のように、自分の声を出している日が、きっとやってきます。
その日までの道のりを、急がなくていいので、
今日の自分のペースで、ゆっくり歩いていけますように。

